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Vol.16 クレンジングオイルの使い心地を科学する

  ~メイク落ち以外の重要な使用感を可視化~

執筆:山口 裕章(おいしさ科学館館長)

おいしさ科学館では、口紅の使用感(おいしさ科学館コラムvol.14)以外にも、様々な化粧品についてその使用感可視化に挑戦を続けています。今回は、第77回日本化粧品技術者会研究討論会(2015年11月27日)にて発表したクレンジングオイルの使用感可視化について紹介します。

メイク落ち以外に重要な使用感ってなんだろう

クレンジングの最も重要な機能は、皆様ご存知の通りメイク落ちです。それ以外にどのような機能・使用感が重要なのでしょうか。メイク馴染みは勿論のこと、のびの良いテクスチャー、使用後の潤い、低刺激、すすぎ易さ・・・など、口コミサイトには様々なご意見が載っています。今回おいしさ科学館では、使用時の感覚に焦点をあてて官能評価を実施し、そこから重要な感覚を抽出しました。

<官能評価による感覚の抽出>

市販品6種(試料D~I)、太陽化学処方品3種(試料A~C)、計9種のクレンジングオイルについて、ホームユーステストを4名で実施しました。塗布時→汚れ落ち→すすぎ時→後感触といった形で、それぞれのタイミング毎に評価項目を設定しました(図1)。図2は、そこで得られた評価結果を主成分分析したものです。

<官能評価による感覚の抽出>

主成分分析より意外な結果が得られました。図2で示すとおり、メイク落ち以外の使用感が各試料の識別に大きく寄与していることが判明したのです。勿論、メイク落ちが極めて重要な機能であることは間違いなく、今回選択した各試料間における重要な識別項目になっていることも確認しています。おそらく、今回選択した試料がいずれもメイク落ちの良いクレンジングオイルであったため、『メイク落ち』による識別以上に、その他の使用感において試料間の識別がなされたものと推測します。

使用感の可視化

今回は図2の中から、塗布時の「伸ばしやすさ」、すすぎ後の「べたつき」に着目し、機器分析による数値化を試みました。

<塗布時の伸ばしやすさ>

伸ばしやすさについては、おいしさ科学館独自の分析手法として、動的粘弾性測定装置を用いて実際にクレンジングを塗るシーンを模倣した新規測定手法を考案しました。即ち、人工皮膚(写真1)の青線の箇所にクレンジング1mlを塗布し、球状冶具が30rpmで青い円軌道を滑る際のトルクを測定することで、ヒトがクレンジングを皮膚の上で伸ばす際に手に感じる力を再現したものです(動画1)。そこで得られたトルクと官能評価スコアとの相関を確認したところ、強い負の相関(決定係数 0.85)を確認することができました(図3)。即ち、球状冶具が人工皮膚上をすべる際、より力がかかるほど、伸ばしづらい試料となっていることがわかります。この測定方法によって皮膚上の「伸ばしやすさ」という感覚を、相関高く数値化できるものと考えます。

<塗布時の伸ばしやすさ>

<すすぎ後のべたつき>

すすぎ後の「べたつき」の数値化については、化粧水での測定方法(*参考文献)を応用しました。即ち、クリープメーターの引っ張り試験を応用し、合成皮革を貼り付けたステージにプランジャーを0.5N/cm2の圧力で押し付け、その後ステージを引き下げることで、ヒトが肌に手をおしあて、離す際に感じる付着性を再現したものです(図4)。また、測定に用いたステージは、クレンジングオイルをすすいだ後の状態を再現するために、単純に試料をステージに塗布するだけではなく、試料塗布後に水に浸漬し、その後ステージを垂直に立てて水切りを行っており、これをすすぎ後モデルとしています(図5)。

<すすぎ後のべたつき>

上記測定手法により得られた付着エネルギーとべたつきの官能評価スコアとの相関を確認したところ、強い正の相関(決定係数 0.82)があることが判明しました。即ち、付着エネルギーが高いほど、べたつく試料となり、付着ネネルギーによってすすぎ後の「べたつき」を数値化できるものと考えます(図6)。

<すすぎ後のべたつき>

クレンジングオイルの使用感

以上、クレンジングオイルの使用感を総合的にとらえ、本来の機能である洗浄性以外の重要な感覚を抽出し、機器測定により数値化することができました。

最後に、機器測定によって得られた「伸ばしやすさ」と「べたつき」を軸に、各クレンジングオイルを2次元マップでポジショニングをしました(図7)。

クレンジングオイルの使用感

このように、クレンジングオイルの使用感を客観的かつ多元的に捉えてみるのはいかがでしょうか。
それによって、例えば市場品の特徴把握や、製品開発の方向性を検討する際の重要な指標となるかもしれません。

(2016年3月)

<参考文献>
秋山庸子, 第37回日本バイオレオロジー学会年会抄録集 (2014)

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