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学術コラム 学術コラム 学術コラム

医学と健康を結ぶ絆-最新研究を生活に活かす

久保 明
東海大学医学部 抗加齢ドック教授
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授

1)サプリメントUpdate

サプリメントを臨床的に評価するには、摂取量や対象者の状況、効果の評価法、そして解析方法など多くの因子が関与しています。“サプリメントは効かない”といったことや“このサプリメントを飲めば健康になる”などという一方的な断定は科学的なものではありません。下記の表には死亡率、がん、動脈硬化という薬剤の時にも使われる臨床的指標を用いた各種サプリメント(ビタミンが主体)の臨床研究を、有意差が出たものと有意差が出なかったものに分けて示しました。また、2013年12月のAnnals of Internal Medicines誌には“Vitamin and Mineral Supplements in the Primary Prevention of Cardiovascular Disease and Cancer”という予防医学におけるシステマティックレビュー*1が掲載されました。ここでは26の論文(24がランダム化比較試験*2、2つがコホート研究*3)のうち2つの研究では10年以上マルチビタミンを摂取した男性においてがんの発症リスクが下がったものの、全体としてはガン・心血管障害発症予防にマルチビタミン・ミネラルを用いても効果は認められなかったとしています。ではビタミン剤はまったく意味がないのでしょうか?この論文をよく吟味すると“対象者が一般的に健康な人であり1次予防である…”と記載があります。がん・心血管障害における1次予防を達成するのは薬剤でも困難であり、マルチビタミンにその荷を負わせるのは酷なのではないかとも思います。さらに、10年以上マルチビタミンを摂取した男性の研究では僅かながら有意差が生じたことにも注目です。“健康寿命”という言葉が定着したように、疫病への罹患や死亡率といった指標以外に“well-being”という状態をどのように指標に組み込んでゆくかが今後の大きな問題ではないでしょうか?
自分はこの20年間、約80%の日において軽いトレーニングとマルチビタミンなどサプリメントの摂取を続けています。これには疾病に対する予防的意味もありますが、それ以上に自分の能力を悔いなく発揮するためのコンディショニングの意味が大きいです。このような切り口からサプリメントを捉え直すのも良いのではないでしょうか。

1)サプリメントUpdate

2)ビタミンEと認知症

認知症は現代医学における超難問の1つです。薬剤ではドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンの4種類が臨床現場で使えるようにはなりましたが、アミロイドβ(Aβ) *4そのものにアプローチする薬剤の開発は道険しいものがあります。2014年1月23日のThe New England Journal of Medicine誌においてAβに対するモノクローナル抗体*5であるソラネズマブとバピヌズマブの用いた研究(いずれも対象者は1000名以上)が失敗に終わったことが報告されました。現在の治療法の限界を越えるものとして期待された方法がまた頓挫したわけです。このようなオーソドックスな方法以外には、スタチン*6系薬剤を使用した試みや柑橘類を用いたものなどがあります。2014年1月1日のThe Journal of the American Medical Association (JAMA)誌上でビタミンEを2000IU/日を用いた研究では現在使用されている薬剤のメマンチンよりもビタミンEのほうが効果的であったことが明らかにされました。観察期間が短いなどの限界はありますが、薬剤よりも効果的であった点、ここ10年以上400IU/1日を上限とされていたビタミンE投与量が2000IUという大量で行われた点が極めて注目されます。
また、私達が行った研究ではアルツハイマー病のリスクをチェックする一環としてアポ蛋白Eの表現型を調べ、1/4~1/5の日本人がアルツハイマー型認知症発症のリスクを約30%増加させるアポE4を有していることを明らかにしました。今後はアポE4を有している人に対して予防的にビタミンEやイチョウ葉を進めるのも一法かと思います。

3)注目の腸管

腸管は消化吸収のための器官として理解されてきました。しかし、口腔から肛門までつながる消化管粘膜は生体外からの食物抗原や病原性微生物にさらされています。無害な食物抗原や腸内常在細菌に対しては過剰な免疫反応をせず、病原性微生物を適切に排泄し免疫反応を行う絶妙なバランスを担うのが消化管粘膜と腸内細菌です。
消化管粘膜は抗原を認識するTLR(Toll-like receptor)が存在し、IL-18やムチンなどの産生に関わっています。また、CD4+T細胞の中でもTh17細胞が存在しており粘膜のバリア機能向上に一役買っている一方、制御性T細胞(Treg)が過剰な免疫応答を調節します。
腸内細菌は1000種類、100兆個以上存在し、宿主に対して有益な効果を示す場合に“probiotics”と呼ばれることはよく知られています。Nature Medicine誌は2013年5月にこの腸内細菌のはたらきが赤身肉の動脈硬化促進作用と深く関わっていることを明らかにしました。以前からベジタリアンの人達の死亡率が非ベジタリアンの人達に比べ約10%低く、心血管障害を発症する頻度も少ないことが報告されてきました。この研究では、赤身肉に含まれるコリンなどが腸内細菌のはたらきでトリメチルアミン(TMA)となり、さらにトリメチルアミンオキシド(TMAO)に変化して脂質代謝を動脈硬化進展の方向に促すことが明らかにされたのです。日本でも血中TMAO濃度が測定できる日も遠くはないと思います。
そう言われても時々食べる肉はおいしい、というのが自分を含め一般的な感想ではないでしょうか。平均的な日本人の肉の摂取量ではTMAOはそれほど高くならないと信じて私も時々ステーキを楽しんでおります…

4)ストレス対処法としての瞑想

心身相関については神経-内分泌-免疫関連を中心として幅広く研究され、ストレス時におけるリンパ球の動態も明らかにされてきました。さらに病態としては関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなどの膠原病のみならず、甲状腺・糖尿病の一部の発症にもストレスが関与しています。
一方、治療法については生活指導、カウンセリング、自律訓練法、認知行動療法などから薬物療法にいたるアプローチがありますが、その効果検証は容易ではありません。
2014年1月6日のJAMA Internal Medicine誌上にMeditation Programs for Psychological Stress and Well-Beingというシステマティックレビュー*1とメタ解析*7がジェンズホプキンス大学から報告されました。瞑想というと日本では宗教とのつながりで認識されていることが多く、統合医療や代替医療の中でとりあげられることはあっても、現代医学の中で評価される機会は稀です。この論文では3515名が参加した47の研究をメタ解析し、8週間や3~6ヶ月といったばらばらの期間のいずれにおいても瞑想が不安、うつ状態、疼痛の3つ病態に有効であると確認されました。一方、食行動や睡眠障害などに及ぼす作用の立証は十分ではありませんでした。心理的な状態の臨床評価を客観的に行うことは難しいので今後異なる報告が出てくる可能性もありますが、ストレスのきわめて強い現代社会における医学的対策の1つとして瞑想は注目されることでしょう。
私も年齢と共に睡眠の質が低下していると感じることがあります。瞑想は5~10分間程度のものを時々行い、テアニンと漢方薬の“酸棗仁湯(サンソウニントウ)”を就寝前に服用することで、睡眠薬を用いるのは年に数回と抑えています。睡眠薬の長期使用と認知症発症のかかわりを明らかにした報告もあるなか、薬以外の睡眠改善のアプローチも大切だと思います。

(2014年3月)

(注釈)

*1 システマティックレビュー
文献をくまなく調査し、ランダム化比較試験(RCT)*2のような質の高い研究のデータを、データの偏りを限りなく除き、分析を行うこと。メタ解析*7とともに論文化されることがある。

*2 ランダム化比較試験(RCT:Randomized Controlled Trial)
対象をランダムに選び、介入(薬・検査・看護など)を行うグループ(実験群)と介入を行わない群(対照群)にわけ、評価を行う方法。

*3 コホート研究
大規模な特定の集団を長期間追跡し、健康状態の変化から、生活習慣や環境など様々な要因と病気の関連性を解明する研究方法。

*4 アミロイドβ(Aβ)
ペプチドの一種。アルツハイマー型認知症はこのアミロイドβ(Aβ)が脳内で異常沈着することが原因という説が有力とされている。

*5 モノクローナル抗体
単一な抗原決定基と反応する構造が均一な抗体。

*6 スタチン
HMG- CoA還元酵素を阻害することにより血液中のコレステロールを低下させる薬物の総称。

*7 メタ解析(メタアナリシス)
複数のランダム化比較試験の結果を統合し、より高い見地から分析すること。またはそのための手法や統計解析のこと。システマティックレビュー*1とともに論文化されることがある。

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