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新・機能性表示制度のガイドライン案のポイントとは

市川 寛
同志社大学大学院生命医科学研究科 教授

はじめに

はじめに

食品の新たな機能性表示制度が2015年度中に導入されることになった。すでに消費者庁は、米国ダイエタリーサプリメント(DS)制度を参考に、新しい表示制度の仕組みを検討中であるが、このたび、規制改革会議「健康・医療ワーキング・グループ」において、新・機能性表示制度のガイドライン案のポイントが説明されている。
本ガイドラインは、予想通り、消費者庁の検討会報告書に沿った内容を踏襲しており、その内容は、「安全性に関する評価手順」「有効性に関する評価手順」「機能性に関する表示方法」「消費者への情報開示」「生産・製造及び品質の管理・届出に関する事項」「健康被害の情報収集体制」「国の関与のあり方」などの項目で構成されている。
本稿では、新・機能性表示制度ガイドライン案の概要と、その問題点について、私見を交えて紹介する。

安全性に関する評価手順

食品の安全性評価は、食経験や安全性試験データをもとに行うことになっている。本ガイドライン案では、喫食実績による食経験を評価する際の留意点が示されている。その基本的な考え方とは、まず、喫食実績が全国規模であり、機能性を表示する食品の摂取集団よりも広範囲の摂取集団で、同等以上の摂取量による一定期間の実績があることが求められている。また、日本人の食生活・栄養状態、衛生面や経済面などが類似の国・地域で、機能性を表示する食品の摂取集団よりも広範囲の摂取集団で、同等以上の摂取量による一定期間の喫食実績があることも要求されている。
なお、喫食実績による食経験の評価ができない場合は、データベースの2次情報によって評価することになっている。

有効性に関する評価手順

新・機能性表示制度に届け出る機能性の実証は、検討会報告書で示されたように、臨床試験の方法は原則、特定保健用食品に準拠するが、機能表示の科学的根拠の考え方として、最終製品を用いた臨床試験、最終製品または関与成分に関する研究レビューのどちらかで行うことになっている。
最終製品を用いたヒト試験による実証には、研究計画を「UMIN臨床試験登録システム」等に事前登録することが義務づけられ、国際的指針準拠の査読論文を作成することが必須となる。なお、臨床試験の参加者は、疾病に罹患していない者から選定するとされている。
また、適切な研究レビューによる実証も認められている。これは、観察研究の対象者の考え方など示す恣意的な論文抽出による不適正な機能性評価を防ぐことも視野に入れられ、企業は定性的または定量的なシステマティック・レビュー(SR)を実施することが必須とされている。具体的には、製品の成分とレビューの成分の同等性が確認され、Totality of Evidenceの観点で肯定的な結果が要求されており、複数の関与成分について安全性及び有効性について相互作用等の有無が確認されている前提のもと、成分ごとに機能性を実証すればそれぞれ機能性を表示できるとされている。

機能性に関する表示方法

新制度の対象は食品全般となっている。ただし、「特別用途食品、栄養機能食品(と重複できない)」「アルコール含有飲料」「脂質、飽和脂肪酸、コレステロール、糖類(単糖類または2糖類であって糖アルコールでないもの)、ナトリウムの過剰摂取につながる食品」は対象外となっている。
対象成分は、作用機序が考察され、直接的又は間接的に定量可能な成分であり、食事摂取基準で摂取基準が策定されている栄養成分は対象外となっている。また、規格を設定し、登録検査機関等で分析により、成分量を確認しなければならない。
機能性表示のあり方において、その対象者は、生活習慣病等の疾病に“擢患する前の人”、“境界線上の人”であり、未成年者、妊産婦、授乳婦は対象外となっている。今回のガイドラインでは、「診断」「予防」「治療」「回復」「緩和」「処置」といった医学的な表現は使用できいと指摘されており、認められない表現として、「疾病の治療効果や予防効果を暗示する表現」(糖尿病の人に、高血圧の人になど)、「健康の維持・増進の範囲を超えた意図的な健康の増強を標ぼうするもの」(肉体改造、増毛、美白など)があげられているのが特筆すべき点である。

消費者への情報開示

消費者への情報開示は、容器包装の表示以外に、消費者庁や企業のウェブサイトで行うことになっている。また、一般消費者がわかるように、可能な限り簡単な言葉に置き換えた情報も開示することが要求されている。
具体的に容器包装への表示については、機能性表示の内容について国による評価を受けたものではない旨の表示が必要であり、生鮮食品を除き、疾病に既に羅患している人、未成年者、妊産婦〈妊娠計画中の者を含む。)及び授乳婦に対し、機能性を訴求したものではない旨の表示が求められる。同時に、バランスの取れた食生活の普及啓発を図る文言を表記し、関与成分以外の成分を強調、訴求するような表示は行わないことが求められている。
表示以外の情報開示としては、機能性表示の内容に関する科学的根拠情報について、前述のごとくウェブサイトなどを使って、表示以外の手段により詳細に情報開示を行うことが求められている。さらに、最終製品による臨床試験が行われていない場合や、ネガティブな情報は、同時に情報開示を行わなければならないとしている。

生産・製造及び品質の管理・届出に関する事項

品質の管理等については、食品衛生法に基づく安全性の確保を基本に、製品分析、規格の設定を行い、検証のためのサンプル保存が求められている。また、生産・製造、品質管理については、届出の際に、衛生管理や品質管理などの安全性を確保していることを説明する資料を用意しなければならない。
なお、届出制については、商品が販売される前に消費者庁へ届け出る「販売前届出制」が導入されている。

健康被害の情報収集体制

健康被害等の情報収集に関しては、それぞれの対応方法が決められている。企業は、消費者や医療関係者などから連絡を受けるために、情報収集体制の整備(緊急時の対応体制の整備、お客様相談室の連絡先の表示〉が義務づけられている。消費者庁は、消費生活センター等からの情報収集の強化と、適切な情報分析をしなければならなく、さらに、厚労省は収集解析方法の研究をすることになる。
また、健康被害の情報を収集するため、企業は消費者や医療関係者などから連絡を受けるための体制を整備しなければならない。

国の関与のあり方

企業には、前述のごとく、販売前届出制度の導入が義務づけられている。届出制度のポイントは、まず、安全性や有効性等の根拠情報を含めた製品情報について、事業者は消費者庁に対し販売前の定められた期日までに届出を行うこと、届出られた情報については、原則として販売前に開示すること、また、届出られた情報に対しては、販売前から国民が自由にアクセスできるようにし、一般消費者にも理解、活用しやすい形式も整備する(その情報も、届出・開示を必須とする。〉となっている。
法令は、食品表示法に基づく食品表示基準に規定されており、販売品の監視の徹底として、食品表示法に基づく収去等、販売後の監視を徹底することにより、新制度の適切な運用がはかられる予定である。

食品機能性表示法導入と問題点

米国の場合、DS制度の導入前の消費者は、「何となく健康に良さそう」というイメージで商品を買っており、今の日本に近い状況にあったと言える。その後、DS導入によって、米国消費者は何に役立つ商品であるのかがわかるようになり、同時に、企業にとっても売上が伸び、市場全体で見ると、導入前の4~5倍程度に拡大したと言われている。
今回、米国を参考に、日本においても機能性表示制度が導入されるが、何よりも重要なことは、品質管理、安全性確保、有害情報の収集体制などをきっちりと整備することが大切である。
消費者にとって、健康食品の機能性表示はあった方が良いであろうし。健康食品を上手に使えば、健康維持に役立つ可能性も充分ある。また、新制度のもとで、安全性確保のレベルも向上すると考えられる。
ただ、新制度導入には懸念される点も指摘されており、たとえば、消費者が、健康維持の名目に過剰摂取する場合が想定される。また、不必要なものを購入してしまう経済被害も想定される。特に過剰摂取問題に対しては、消費者庁は消費者教育に力を入れる必要があり、また、企業もホームページなどで周知しなければならないであろう。
ところで、現在はあいまいな表現で販売されていたり、有名人が広告塔になっていたりして、消費者が誤認してしまう場合がある。正しく商品選択できる新たな制度を導入することで、体験談などのイメージで売られる健康食品を淘汰できる可能性もある。いずれにせよ、ルールを守り努力した企業が報われる新制度であるべきであり、さらに、中小企業にも利益誘導ができるような制度となってほしい。
新制度が導入されると、錠剤・カプセルなどの形状の食品群と、一般食品形態の機能性を付加した食品群を合わせると、関連市場は5兆円規模に拡大すると予想されている。また本制度は、科学的根拠があれば、トクホでは表現できない機能性表示も可能となること、短期間・低コストで準備ができることなどのメリットは大きい。
以上をまとめると、新制度に期待されるものは、消費者が誤認せずに自ら合理的に商品選択ができること、安全性や品質確保にまじめに取り組む企業が正当に評価されること、業界の国際化が進むことなどがあげられると考える。

(2015年2月)

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