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Vol.20 野菜の「シャキシャキ感」~炒めもやしの物性測定と電子顕微鏡画像~

野菜炒めをご家庭で調理した際、しゃばしゃばになってしまった経験はありませんか?野菜は調理過程で水分が出てくることが多い食材であり、加熱すればするほど水分が外へ出てしまいます。加熱によって水分が失われた野菜は、咀嚼時の「シャキシャキ」した食感が損なわれてしまいます。特に味わいが淡白な野菜類(もやしなど)は、どのような料理とも相性が良く、また料理をボリュームアップするためにも利用され、味わいが淡白なだけに食感を楽しむ側面が強い食材でしょう。 このように、食感が重要になってくる野菜の「シャキシャキ感」、今回は炒めもやしについて分析してみました。

シャキシャキ感を構成する物理的要素

もやしを炒めると、加熱によってもやし内部の水分が外部に流出してしまいます。そのため、「シャキシャキ感を出すために、強火かつ短時間で炒めて内部の水分をできるだけ出さないようにする」という工夫は中華料理の調理法をベンチマークとした“おいしく仕上げるコツ”として有名です。加熱によってもやし表面は硬くなりますが、内部は生もやし同様に水分で潤ったやわらかい状態となるようにしているわけです。言い換えれば、表面と内部の食感差が「シャキシャキ感」を構成しているものと考えられます。

炒めもやしの破断測定

「表面と内部の食感差が炒めもやしのシャキシャキ感の違いである」という想定に基づき、クリープメーターによる破断測定を行い、もやし表面と内部の硬さの違いを分析してみることにしました。具体的には、クリープメーターのステージ上でもやしを固定し、直径0.8mmの円柱プランジャーをもやし内部に進入させる方法です(図1)。

図1 もやしの破断測定

図1 もやしの破断測定

シャキシャキ感が異なる炒めもやしを調製

分析に供するサンプルとして、シャキシャキ感が異なる炒めもやしをつくる必要があります。そこで、表1の簡単な処方でもやしをフライパンで炒め、炒めもやしを調製しました。尚、サンソフトNo.230ADは太陽化学㈱製の乳化剤です。これらの炒めもやしサンプルについて、7名のパネルで喫食事のシャキシャキ感の強弱を順位法で評価しました。シャキシャキ感の強い順にサンプルB(1.29)、サンプルA(1.71)、無添加(3)(括弧内は順位の平均値)となりました。また、ケンドールの一致係数は0.80で比較的強い順位相関があり、フリードマン検定において有意性を確認できました。(有意水準 0.01)。

表1

control サンプルA サンプルB
もやし(g) 100 100 100
ごま油(g) 2.5 2.25 2.00
サンソフトNo.230AD(g) - 0.25 0.5

シャキシャキ感の可視化

以下はシャキシャキ感の異なる前記3つのサンプルおよび未加熱の生もやしについて、図1の前記測定法を用いて分析した結果です(図2)。 

図2 もやしの破断測定

図2 もやしの破断測定

この図2の破断曲線の傾向から、プランジャーがもやしに進入する過程でもやし表面が変形する様子は図3および表1のようなイメージであろうと考えられます。

図3 プランジャーの進入時のもやし表面の様子

図3 プランジャーの進入時のもやし表面の様子

サンプル もやしにプランジャーが進入するときのイメージ
①生もやし 表面がやわらかいためにすぐに破断する。
②加熱もやし
(control)
加熱により表面が硬くなり、すぐには破断しない。
内部も硬いため③より変形しにくく、③より早めに破断する。
③サンソフトNo.230AD添加もやし
(サンプルA,B)
加熱により表面が硬くなり、すぐには破断しない。
内部が生もやしのやわらかさを維持しているため変形しやすい。

表1 プランジャーが進入するときのイメージ

前記分析で得られた波形から、以下に示すいくつかのパラメーターを抽出して炒めもやし3品を比較しました(図4)。
この比較結果から、破断荷重(もやし表面の硬さ)は同じですが、他の3つのパラメーターが異なることがわかります。シャキシャキ感のあるサンプルAとBはコントロールと比べて破断変形(もやしの弾力)が大きく、第2破断荷重(もやし内部の硬さ)が小さく、第1破断点から第2破断点までのエネルギー(咀嚼を進める際に必要なエネルギー)も小さい結果となっています。すなわち、シャキシャキ感のあるもやしは内部がやわらかいために、破断するまでの変形が大きく、破断した後はより小さなエネルギーで咀嚼が進むものであることを示す結果となりました。

図4 もやしの破断測定結果①

図4 もやしの破断測定結果①

各サンプル波形における図5のマーカー点(○、△、□)の荷重平均値および当該3点で囲まれた第1破断点から第2破断点におけるエリアを図示しました。
無添加controlとサンソフトNo.230AD添加品はともに表面は同じ硬さを示しますが(○)、もやし内部(△、□)については生もやし同様のやわらかさを維持しており、より小さなエネルギー(第1破断点~第2破断点までを塗りつぶしたエリア)で咀嚼を進めることができます。

図5 もやしの破断測定結果②

図5 もやしの破断測定結果②

電子顕微鏡観察

次に、X線元素分析付き電子顕微鏡(SEM-EDX)にて、前記controlおよびサンプルBの2点について表面形状および表面の元素分布(C赤色O緑色)を観察しました。

尚、もやしとごま油の元素構成比(CO)は、もやしはCO65(セルロース)、ごま油はCO576(主成分 C18脂肪酸エステル)です。そのため、ごま油でコーティングされている箇所はCが圧倒的に多くなり、赤が濃く緑は薄くなります。一方で、もやし表面が露出している箇所はコーティングされた箇所と比べて相対的に赤が弱く緑が強くなります。

図6 もやし表面とごま油の主成分元素構成

図6 もやし表面とごま油の主成分元素構成

図7はSEM-EDXによる観察結果です。Controlの電子顕微鏡画像には濃淡のムラがあり、白く見える箇所は元素分析と照らし合わせるとC)が薄く、相対的にO)が濃くなっており、もやしの表面が露出していることがわかります。一方、サンプルBはムラがなく、C)が全面で濃く、O)が薄くなっています。このことから、もやし表面上で均一に油がコーティングされていることがわかります。

図7 もやしのSEM-EDX画像

図7 もやしのSEM-EDX画像

SEM-EDXによる観察結果から、サンプルBは、本来加熱により失われるもやし内部の水分を、表面油脂コーティングにより内部に閉じ込めているものと推測されます。その結果、もやし内部も生もやし同様の潤いとやわらかさを維持し、シャキシャキしたもやしとなっているものと考えています。

数値情報と視覚情報の組み合わせ

「野菜はシャキシャキしているほうがおいしい」と仰る方が多いと思います。但し、全ての人がそのように思っているわけではありません。人によって、料理によって、野菜によって好みは異なってきます。鍋料理では、野菜がとろとろクタクタになるまで煮込んだほうが好きな方もいれば、軽く火通ししたレベルでシャキシャキ感を楽しみたい方もいます。読者の皆様は、様々な料理ごとにそれぞれ拘りの野菜食感をお持ちかもしれませんね。

さて、おいしさ科学館では、このたびX線元素分析付き電子顕微鏡を導入しました。今回のコラムで初めて当該装置のデータをご覧いただきましたが、このように視覚情報からも食感を示唆できる可能性があります。とろとろ、クタクタとなった野菜は、いったいどのような視覚情報になるのでしょうか・・・気になります。
様々な食感について、様々な角度から分析することで見えてくるものがあると思います。今回のように、数値情報(物性分析など)と視覚情報(電子顕微鏡など)、全く異なる分析を合わせて見るのも面白いですね。

(2019年1月)

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