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太陽化学株式会社

「もう一度学ぶ乳化剤」 ~第3回「ポリグリセリン脂肪酸エステルとは?/共存物質が乳化系に及ぼす影響について」

太陽化学株式会社
インターフェイスソリューション事業部
研究開発グループ

1.はじめに

 乳化剤の選び方や使い方に関し、みなさんに少しでも解決のヒント、情報として頂けるよう、「もう一度学ぶ乳化剤」と題し記事を配信して参りました。今回は最終となる3回目です。前回は、蒸留固体モノグリセリドの使用において使用温度に留意しないとゲル状物が発生する事例などについて紹介しました。その際、親水性ポリグリセリン脂肪酸エステルは、融点以上に加熱してもゲル状物を形成しないことに触れました。今回、そのゲル状物を形成しにくい理由について、ポリグリセリン脂肪酸エステルの構造などの説明を交えてご紹介したいと思います。併せて、そのポリグリセリン脂肪酸エステルを用いた乳化系を例に、糖などの共存物質が乳化に及ぼす影響についてご紹介いたします。

 

2. ポリグリセリン脂肪酸エステルとは?

 ポリグリセリン脂肪酸エステルの親水部はポリグリセリンです。その工業的な合成法は図1に示しました脱水重合法が一般的です。ポリグリセリンの組成はグリセリンの重合度が高いほど、複雑な組成となっていきます。図2に「デカグリセリン」のガスクロマトグラフィーの分析例を示しました。「デカグリセリン」とは言っても、十量体は一部しか含まず、重合度の異なるポリグリセリンの混合物であることがお分かり頂けると思います。さらに、これと脂肪酸をエステル化反応させるのです。図1には、モノエステル品(ポリグリセリン:脂肪酸=1モル:1モル)を例に挙げました。反応生成物は、モノエステル体だけでなく、一部にジエステル体、トリエステル体などを含む混合物として得られます。また合成されなかったフリーのポリグリセリンも一部残存します。このように、ポリグリセリン脂肪酸エステルは複雑な組成を持った混合物であるが故、液晶を作り難いものとなり、蒸留モノグリと異なりゲル状物を作らないと考えられます。

 


図1

 


図2

 

3.ポリグリセリン脂肪酸エステルの特徴

 ポリグリセリン脂肪酸エステルは当社乳化剤の主力製品の一つです。に示しましたように、ポリグリセリン脂肪酸エステルは重合度の異なるポリグリセリンと脂肪酸鎖長や飽和、不飽和と種々異なる脂肪酸と、それらの組み合わせ、比率を変じることでで、親水性から親油性まで幅広く、多種多様なものを合成することができます。また後述しますが、親水性のポリグリセリン脂肪酸エステルは水和性が高く、耐酸、耐塩、耐熱乳化に適した乳化剤と言えます。

 


図3

 

4.曇点(曇り点)とは?

 食品中の素材、例えば、食塩、糖、酸などは乳化状態に影響を及ぼすことがあります。これは、これら素材が乳化剤の水和状態に影響を与えることに起因します。乳化剤の水和状態を把握する上で使用される指標の一つに曇点(あるいは曇り点)測定があります。動画1をご覧下さい。


動画1
 

 2本の試験管の左が親水性ポリグリセリン脂肪酸エステルの水溶液、右が親水性ポリエチレングリコール系界面活性剤の水溶液です。これらを熱湯に漬けると、左は透明のままですが、右は次第に白濁していきます。このように、乳化剤水溶液を加温していくと、ある温度で乳化剤が水に溶け難くなり白濁する現象が起こります。その温度を曇点と呼び、非イオン性界面活性剤水溶液に特有な現象です。図4のモデル図にありますように、ポリグリセリン脂肪酸エステルは水酸基を有するため水和性が高く、単なる水溶液では白濁となる現象は観察できません。例えば塩分20%水溶液といった高塩条件とすることで、ようやく曇点を観察できるようになります。つまりポリグリセリン脂肪酸エステルは曇点が極めて高く親水性の高い乳化剤であると言えます。一方、ポリエチレングリコール系界面活性剤が持つエーテル結合は、水酸基に比べ水和性が低く、さらにポリエチレングリコール鎖が加熱による立体構造の変化を生じるため、水への溶解性が低下し白濁します。つまり、曇点を境にして乳化剤の水和状態が弱まり親水性から疎水性に変化したということを意味します。

 


図4

 

5.他成分の影響を考慮した乳化系の設計

 乳化剤は塩の影響により水和性を減じ、曇点を低下させますが、同様の現象は糖、多糖類、グリセリンのような多価アルコール、酸などの添加でも観察することがでます。みなさんも、ある乳化剤で均一な乳化ができていて、その系に糖類や食塩を添加、あるいは酸性を上げるなどして乳化が不安定になった経験はないでしょうか?これは糖や食塩、酸などを添加したことで乳化剤の水和が阻害され、結果的に乳化状態のバランスを変化させたと考えることができます。

 これを裏付ける実験例を紹介します。図5に親水性乳化剤と親油性乳化剤の混合比率を変えた乳化実験を示します。デカグリセリンオレイン酸エステル(HLB=12)と、ソルビタンオレイン酸エステル(HLB=5.1)用いたときの乳化実験から、他成分の影響と、乳化剤の組合せ比率の変化との関係をみています。乳化方法は、転相乳化法と呼ばれる方法で行ないました。通常のO/W乳化は、乳化剤を水相中に添加し、そこに油相を添加して乳化を行いますが、転相乳化法は、乳化剤を油相中に溶解・分散させ、そこに水相を添加しO/W乳化物を得ます。乳化の途中で連続相が油から水へと変化(転相)するため転相乳化と呼ばれ、プロペラ攪拌のような弱い剪断でも比較的微細な乳化粒子を得ることができます。

 具体的な実験方法は、図5に示しました。乳化剤は5%、水20%、油75%を用いて、油に予め2種の乳化剤を60℃で溶解しておき、これに加温した水(60℃)を注ぎながら、60℃でプロペラ攪拌により乳化を行いました。5%の乳化剤のうち、2種の乳化剤の混合比率を少しずつ変えて各種乳化物を調製し、そのときの平均粒子径を測定することで最小平均粒子径となるベストな乳化状態となる混合比率を求めました。

 結果は図6の通りです。乳化剤総量中に占めるデカグリセリンオレイン酸エステルの割合が30%の時に平均粒子径が27μmであり、最も粒子が細かい最適な乳化剤の混合比率であることが分かります。同様の実験を5%ショ糖水溶液に変えて行うと、平均粒子径が最小となるときのデカグリセリンオレイン酸エステルの割合は35%になり、親水性乳化剤の割合が5%増えていることが分かります。すなわち、ショ糖の影響によって乳化剤の水和状態が変わり、最適な比率が親水性から疎水性にシフトしたものと考えられます。

 このように多成分系である食品の乳化系を設計する際には、食品中の素材が乳化に及ぼす影響を考慮し適切な乳化剤を選定することが肝要なのです。「もう一度学ぶ乳化剤」の第1回目の配信では、乳化剤の選定においては、乳化剤の平均HLBを油の所要HLBに近いものを選択することが第1ステップと紹介しました。実際の乳化系は糖や塩などの影響で乳化剤は親油性に傾くので、HLBをやや高めとなるよう選択するのがコツと言えます。

 


図5

 


図6

 

6.結び

 「もう一度学ぶ乳化剤」と題し、全3回の配信させて頂きました。みなさんが乳化剤を使用されるにあたり、よりよい製品を作るために、また失敗しないヒントとなるなど、少しでもお役に立てたのなら幸いです。また機会がありましたら乳化剤について様々な技術情報を発信させて頂きたいと思います。

 

(2017年3月)

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