閉じる

食と健康Lab

食と健康Lab 食と健康Lab

学術コラム 学術コラム 学術コラム

分散系食品の品質 -評価法および新素材-

松村康生
京都大学大学院 農学研究科 教授

1.はじめに

食品の多くは分散系と考えられます。分散系とは、ある成分がコロイド粒子あるいはもっと大きな集合体を形成して媒質中に分散しているものです。分散される物質を分散相、媒質を分散媒と呼びます。表1に示した通り分散相、分散媒の種類に応じて、そのタイプは多様です。本記事では、その中で、主に乳化系(エマルション)を対象として、その品質に関連する話題を、筆者の研究結果を中心にご紹介してゆきたいと思います。

分散媒/分散相 気体 液体 固体
気体 エアロゾル
(霧状の液体)
粉体
(粉状のミルク、ホワイトナー、小麦粉などの穀類の粉)
液体 気泡
(ビールの泡)
(メレンゲ)
エマルション
O/W型(牛乳、クリーム、マーガリン)
W/O型(バター、マーガリン)
サスペンション、
ゾル、ゲル
(スープ、ピューレ、ゼリー、ソース)
固体 泡沫を含有した固体
(パン、ビスケット、あられ)
魚や肉、青果物などの組織、エマルションゲル
(豆腐、ソーセージ)
(冷凍食品)
(チェコレート)

表1. 分散系食品の分類

2.分散系の特徴

分散系の特徴は、エネルギー的に不安定な非平衡状態にあるということで、そのため時間の経過に伴って成分の分離が起こります。たとえば、O/W型エマルションにおいては、水中に分散した脂質粒子が、凝集、浮揚、合一などの過程を経て、最終的にはエネルギー的に安定な水相・油相の分離に至ります。固体粒子が分散したサスペンションでも同様で、水より大きな比重をもつ固体粒子が沈降し、最終的には沈殿として分離することになります。分散系に求められる品質とは、まず物理的安定性、どれだけ長く分散状態を維持し、分離を遅らせることができるかということです。しかし、食品によっては、分散が不安定化する場合が都合のよいこともあります。たとえば、ホイップ用のクリームは、ホイップ時に油滴同士が部分合一を起こし、ネットワークを形成することによって気泡を安定的に抱き込むことができます。すなわち、油滴の分散状態の不安定化という現象が、ホイップ後の、空気を新たな成分として取り込んだクリームの安定性の鍵となるという逆説的なことも起こります。以上のことから、分散状態を目的や用途に応じて制御できることが品質向上の鍵であるという言い方もできます。
物理的安定性という品質基準のほかに、食品分散系では、別の品質の見方もあります。すなわち味覚や嗅覚など嗜好性に関わる品質です。たとえ同じ味物質においても、それが溶液中に存在する場合と、油滴、澱粉粒子などの分散相が存在する場合では、味の感じ方は、その分散相と味物質の相互作用によって大きく変わる可能性があります。乳化系に話をしぼると、油っぽさやクリーミーさなどの特性は、油滴の存在状態(粒子径、油滴中の油脂結晶量、合一等)に大きな影響を受けます。このほか、香りに関しては、香気性成分と分散相の相互作用によって、その放散(香り立ち)が大きく影響を受ける可能性もあります。本稿では、物理的安定性と嗜好性という2つの品質に関して、以下別々に解説します。

3.分散系(乳化系)における長期分散安定性の評価

食品開発におけるスピードアップを実現するためには、分散系の長期安定性の予測を行うことが必要です。すなわち、調製直後のような初期の段階で、数日から数十日、数ヶ月、場合によっては数年のオーダーに至るような長期分散安定性を予測できるような評価法が存在すれば、現場での開発速度はかなり高くなると予想されます。その一例として、ここでは乳化物の加振法による評価法の例を述べます。たとえば、乳成分入り缶コーヒーにおいては、その乳化物が長期の保存の間に温度ストレスなどを受けることによって、不安定化する、すなわち上層にクリーミングした凝集物が生成し、容易に再分散しなくなり、飲料としての価値が低下します1)。新しい処方の製品を開発した場合に、長期保存後に起こる不安定化が予測できないために、これまでは製品開発に大きな時間をかけざるを得ませんでした。
そこで私達は加振法という評価法を考案し缶コーヒーのような飲料の長期安定性の予測に適用できないか検証しました2)。その手法の概略を図1に示します。

分散系(乳化系)における長期分散安定性の評価

図1. 加振法
エマルション等の分散系の長期安定性を予測・評価するために考案した方法

この方法では、まず対象とする乳化物を遠心分離します。重力の何倍もの加速度をかけて油脂を含む成分を上層に集めます。この操作において、重力下ではゆっくり進行する浮遊を加速することができます。その後、この分離した乳化物の上下を挟み、一定周波数で加振します。この操作によって、凝集力の弱い浮遊物は下層の溶液への再分散が早く進み、溶液の濁度が速やかに上昇しますが、凝集力の強い浮遊物の場合、再分散が遅く、濁度もゆっくりと上昇します。凝集力の強いものは、長期保存後に上層に再分散しにくい凝集物が形成される、すなわち品質が悪くなるものと判断できます。このアイデアに基づくと、加振開始後、一定時間後の下層の溶液の濁度を測定することによって長期的な分散安定性が評価できることになります。実際、この手法で缶コーヒーの製造直後の遠心分離、加振、濁度測定を行い、45日保存後の不安定化の程度との関係をみたところ、高い相関が認められました(R2 = 0.9854)。すなわち加振法は、このような乳化物の長期安定性の予測に有効であることが示されたと言えます。
なお、この加振法はサスペンションの場合にも有効であり、その場合は、遠心操作により凝集物は沈殿し、その沈殿が加振により、どの程度容易に分散するかによって、分散安定性の評価をすることになります。

4.乳化系におけるフレーバーリリースの評価

分散系における嗜好性の品質に関わるトピックスとして、ここでは乳化系からのフレーバーリリースを取り上げます。その背景等について以下に記述しますが、関連文献については、別のところでまとめておりますので、そちらを参照ください3)。フレーバー成分はその疎水度に応じて油滴に分配されるため、乳化系におけるフレーバーリリースは、油滴の含量や分散状態に影響されます。たとえば、疎水度の高いフレーバー成分は、油脂含量の上昇に伴って放散量が減少しますが、疎水度の低い成分の場合は、その放散量はあまり油脂含量には影響されません。乳化系のフレーバーリリースには、その他、油滴表面の吸着層の性質や、油滴中の油脂結晶の存在も影響を与えます。たとえば、油脂が結晶化すると乳化系からのフレーバー成分の放散量は増加します。
前項までは、製造・貯蔵工程において、乳化系の分散状態が変化することを述べてきました。しかし、乳化系は、摂取後、口腔内でもその分散状態は変化します。口腔内では、急激な温度変化が生じるほか、唾液との混合、せん断変形なども加わることにより、油滴の凝集・合一が進みます。W/O型エマルションの場合は、O/W型エマルションへの転相も起こり得ます。最近では、舌表面の粗さ(roughness)が、油滴の合一を促進する重要な要因であるとの興味深い報告もあります。このように興味深い現象は多岐に渡りますが、ここでは字数の制限上、油滴の合一が乳化系(O/W型エマルション)からのフレーバーリリースに与える影響に絞って述べることにします。
Dresselhuisらは、官能検査に基づいて、エマルション中の油滴の合一がフレーバーリリースを促進すると報告しています。しかし、油滴の合一がエマルションからのフレーバーリリースに影響を与えるのか、定量的な分析を行った例はほとんどありません。また、口腔内で油滴の合一が起こる場合には、外的な条件、すなわち温度、せん断力、唾液による希釈、気相の置換なども起こっているので、これらの要因を排除した合一の影響を評価することは難しいと考えられます。そこで、私達は、密閉された容器内において静止条件で(せん断変形などを与えずに)エマルション中の油滴を合一させ、その合一によってヘッドスペース中への香気放散量が変化するのか検討を行いました(図24)

乳化系におけるフレーバーリリースの評価

図2.エマルションの油滴の合一に伴うフレーバーリリース挙動の変化

合一を確実に促進する方法として、一つはタンパク質で油を乳化したエマルションにジグリセリン・モノオレイン酸エステルを加えました。この乳化剤は、乳化剤という名前にも関わらず、油滴の合一を促進し乳化を破壊することを、私達は明らかにしております5,6)。もう一つの方法としては、修飾澱粉であるオクテニルコハク酸澱粉で油を乳化したエマルションにα-アミラーゼを加えて、油滴の周囲の澱粉を分解し合一を促進させました。この反応は口腔内でも実際に起こり得るものと考えます。フレーバー成分としては、疎水度の異なる(脂肪酸の鎖長の異なる)エチルエステルを用いました。実験の結果、どちらの方法でも油滴の合一が促進される現象は観察されましたが、それに伴うフレーバーリリースの放散量の変化は認められませんでした。すなわち、油滴の合一それ自身はフレーバーリリースに影響を与えないということを、この結果は示唆しています4)。しかし、これは上で述べたように密閉された容器内における、静置状態での結果であり、実際に口腔内での環境を再現したものではありません。今後は、せん断処理や、気相の交換などの条件下で検討を行うことにより、油滴の合一がエマルションからのフレーバーリリースに与える影響を調べてゆく必要があると考えています。

5.分散系に利用可能な新素材

乳化系などの分散系を安定化させる素材としては、通常は乳化剤(界面活性剤)やその補助剤、また増粘剤などが一般的です。これらとは、少し異なるメカニズムで分散系を安定化させる新たな素材が注目を集めております。一つは、「Pickering粒子」です。Pickering安定化現象については、既に1900年代前半に報告がありました。これは、図3で示すように、固体粒子がいったん界面に吸着すると、それを脱着させるためには膨大なエネルギーを必要とするため、極めて安定な界面を形成できるという現象です。

分散系に利用可能な新素材

図3.Pickering安定化の例
固体粒子(微粉末)によって安定化されたO/W型エマルション

このような現象は、無機材料の微粒子などを用いて他の産業分野で利用が進んでいたものの、長らく食品分野では用いられてきませんでした。その理由は、食品素材を、その成分に大きなダメージを与えることなく微細化する技術が十分に発達していなかったからです。しかし、近年の急速な微細化技術の発達は、穀類など食品素材の微粒子化を可能にしました。このような食品素材由来の微粒子を、これもまた近年開発の進む様々な均質化装置と組み合わせて利用することにより、乳化系や泡沫系など様々な分散系の安定化に、Pickering現象を応用する可能性が高まっています。私達も直径数μmの米粉を利用して、乳化剤などの助けを借りることなく、油を乳化できることを報告しております7)。また、お茶の水女子大学の香西教授との共同研究により、穀類、豆類、野菜、茸類の微粒子化素材を用いて様々な分散系食品の製造が可能であることを示しています。
もう一つの素材はセルロースなどのナノファイバーです。京都大学の生存圏研究所の矢野教授、阿部准教授は、最新の解繊技術を用いて様々な未利用素材(パルプ、稲ワラ、砂糖キビ絞りかす、ジャガイモの皮等)からセルロースナノファイバーを化学薬品を用いることなく調製する技術を確立しています。私達は、阿部准教授たちと農水省の異分野融合共同研究「セルロースナノファイバーを基材としたQOL向上のための食品・化粧品ソフトマターの開発」(代表者:京都大学農学研究科・谷史人教授)を行っております。図4には、セルロースナノファイバー分散液(水に0.3%のファイバーを分散)を大豆油と3:1の割合で混合した結果を示しています。コントロールとしては、水のみを大豆油と混合しました。混合は瓶を手にもち激しく振っただけですが、通常の水と油の場合は、混合直後から急速に分離が始まるのに対し(日常、家庭で使うドレッシング類でよく見られる現象です)、セルロースナノファイバーが入った方では、数時間たっても油と水の分離は見られませんでした。

分散系に利用可能な新素材

図4.セルロースナノファイバー分散液と大豆油混合液の外観の経時変化

セルロースナノファイバー分散液(0.3%)と大豆油を3:1の割合で混合し、経時的に撮影した。どの時間も左側はセルロースナノファイバー添加、右側は無添加を示す。
固体粒子を分散した場合も同様で、長期間にわたって固体粒子は分散した状態で沈降せずに存在しておりました。また、予備的な結果ですが、セルロースナノフィバーを利用すれば、通常直ぐに消えてしまう泡沫も長時間安定的に保持できることも示しております。同じ研究グループのメンバーである、京都大学化学研究所の渡辺教授は精緻なレオロジー的測定を行って、セルロースナノファイバー分散液のユニークな物性を明らかにしています。詳細は省きますが、通常の増粘多糖類の溶液では見られないユニークなセルロースナノファイバー分散液の物性が、このような安定した分散系の創出に貢献しているものと考えています。

6.おわりに

以上、乳化系を中心として分散系の品質評価法および新しい素材について紹介してきました。私達のグループにおいては、乳化粒子の安定性に影響を及ぼす要因、たとえば、油脂の結晶化の影響などについても解明を試みています。また、上記の新しい素材を用いながら、乳化系のみならず様々な分散系の安定化が可能か検討を進めています。

(2016年3月)

参考文献

  • Effects of bacteriostatic emulsifiers on stability of milk-based emulsions. K. Matsumiya, W. Takahashi, T. Inoue and Y. Matsumura, J. Food Eng., 96, 185-191 (2010).
  • Evaluation of long-term stability of milk beverages by a novel method for rapid determination of aggregation forces between colloidal particles. K. Matsumiya, T. Inoue, J. Niida, T. Katagiri, T. Nishizu and Y. Matsumura, Food Hydrocoll., 34, 177-183 (2014).
  • エマルション中の油滴の合一が香気成分の放散挙動に与える影響. 松村康生, 松宮健太郎, 「食品ハイドロコロイドの開発と応用Ⅱ」(第二章, 西成勝好・監修, シーエムシー出版), 164-171 (2015).
  • Oil droplet coalescence does not necessarily affect the flavor release from oil-in-water emulsions. K. Matsumiya, M. Sasaki, H. Murakami and Y. Matsumura, Colloids & Surfaces A: Physicochemical and Engineering Aspects, 475, 19-26 (2015).
  • Destabilization of protein-based emulsions by diglycerol esters of fatty acids – The importance of chain length similarity between dispersed oil molecules and fatty acid residues of the emulsifier. K. Matsumiya, K. Nakanishi and Y. Matsumura, Food Hydrocoll., 25, 773-780 (2011).
  • Diglycerol esters of fatty acids promote severe coalescence between protein-stabilized oil droplets by emulsifier-protein competitive interactions. K. Matsumiya, Y. Takahashi, K. Nakanishi, N. Dotsu and Y. Matsumura, Food Hydrocoll., 42, 397-402 (2014).
  • 高水分食品への応用を目指した米粉の分散性の評価と乳化能の検証. 松宮健太郎, 奥野勇樹, 松村康生, 日本食品科学工学会誌, 60, 644-653 (2013).

太陽化学のメールマガジン

太陽化学からみなさまへ情報提供のためにお送りしています。
「情報と出会うキッカケ」となれば幸いです。
知ってトクする「技術・製品・提案情報」をお届けします。

お問い合わせ

製品情報、IR、その他のお問い合わせは
下記ページからお願いいたします。