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エピガロカテキンガレートの抗ウイルス効果を高める分子設計戦略

開發 邦宏
株式会社 プロテクティア 技術取締役

エピガロカテキンガレート(EGCG)

緑茶葉にはカテキン類が豊富に含まれる。主要なカテキン類として、(-)-epicatechin (EC; 図1. a) 、そのヒドロキシル体である(-)-epigallocatechin (EGC; 図1. b)、及びそれらの没食子酸エステルである(-)-epicatechin-3-O-gallate (ECG; 図1. c)と(-)-epigallocatechin-3- O -gallate (EGCG; 図1. d) などが含まれている。茶葉中の各成分の含有量は、EGCG>EGC>ECG>ECの順であり、これらを合計すると茶葉乾燥重量の13~30%程度を占める。各カテキン類の生理活性は数々の報告があるが、とりわけEGCGは他のカテキン類やポリフェノール類に比べて高い抗ウイルス活性を示す。1) 本稿では、EGCGに化学修飾を施すことで、その抗ウイルス活性を高める技術について解説する。

図1. 緑茶葉に含まれる主要カテキン類。a: (-)-epicatechin (EC)、b: (-)-epigallocatechin (EGC)、c: (-)-epicatechin-3-O-gallate (ECG )、d: (-)-epigallocatechin-3-O-gallate (EGCG)

図1. 緑茶葉に含まれる主要カテキン類。a: (-)-epicatechin (EC)、b: (-)-epigallocatechin (EGC)、
c: (-)-epicatechin-3-O-gallate (ECG )、d: (-)-epigallocatechin-3-O-gallate (EGCG)

EGCGへの化学修飾が及ぼす化学安定性と細胞膜親和性

EGCGはpH3付近で最も安定な構造を保つが、pHが塩基性になるにつれてB環のピロガロールに含まれる隣接した水酸基が酸化されて、反応性の高いキノン骨格を形成する(図2)。このキノン骨格に対して、別のEGCGが反応する為、重合体を形成し、徐々に着色や沈殿を伴い、生理活性が低下する。

図2.EGCGが酸化されて生成するsemiquinoneとquinoneの化学構造

図2.EGCGが酸化されて生成するsemiquinoneとquinoneの化学構造

EGCGの酸化と重合を阻止するには、そのピロガロール骨格に化学修飾を施すことが望ましいと考えられる。実際、EGCGの水酸基を全てアセチル化したものは(図3. e)、細胞培養液中での化学安定性が約10倍向上することが報告された。2)しかしながら、全ての親水基がアセチル化されてしまうと、著しく水溶性が低下する為、抗ウイルス効果は得られなかった。一方で、EGCGの水酸基にアルキル基を導入する手法が報告された。3)興味深いことに、EGCGに長鎖アルキル基を導入した場合(図3. f)、適度な親水性を保ち、さらに脂質二重膜に作用させると、その内膜に局在することが報告された(図4)。また、EGCGに芳香環を導入した場合には脂質二重膜の外膜に局在することもわかった(図3g, 図4)。

図3. EGCGアセチル体(e)、EGCG芳香環修飾体(f)、EGCGアルキル修飾体(g)の構造

図3. EGCGアセチル体(e)、EGCG芳香環修飾体(f)、EGCGアルキル修飾体(g)の構造

図4. EGCG(d)、EGCG芳香環修飾体(f)、EGCGアルキル修飾体(g)の脂質二重膜に対する相互作用様式

図4. EGCG(d)、EGCG芳香環修飾体(f)、EGCGアルキル修飾体(g)の脂質二重膜に対する相互作用様式

EGCG脂肪酸誘導体の合成

EGCGはインフルエンザウイルスのヘマグルチニン(HA)蛋白質に作用して、ウイルス感染を阻害することが報告されている。4) インフルエンザウイルスは宿主の細胞膜を乗っ取り、子孫ウイルスの粒子膜を形成するので、EGCGに脂質二重膜親和性を付与すれば、インフルエンザウイルスを効果的に不活化できると期待された。そこで、EGCGの酸化を抑え、脂質膜親和性を高めるべく、カテコール基、ピロガロイル基に脂肪酸を導入する手法を検討した。種々検討の結果、アルカリゲネス属由来で脂質分解酵素(リパーゼ)を用いると、EGCGのピロガロール基(図5のR1-4)に炭素原子を2~20含む脂肪酸をエステル結合で導入することができた。1) 生成物の組成としては、B環のR1、もしくはR2に脂肪酸が導入されたものを約80%、D環のR3、もしくはR4に脂肪酸エステルを導入したものを約20%与えることがわかった。1)

図5.リパーゼ触媒反応を用いたEGCGのアシル化反応R1-4の部位に脂肪酸が1か所のみに導入された化合物をEGCG脂肪酸モノエステルとする。

図5.リパーゼ触媒反応を用いたEGCGのアシル化反応
R1-4の部位に脂肪酸が1か所のみに導入された化合物をEGCG脂肪酸モノエステルとする。

EGCG脂肪酸モノエステルの化学安定性

EGCGを細胞培養用の液体培地など溶かすと、溶液中での半減期は約3分であった。しかし、EGCG脂肪酸モノエステルのうち、炭素鎖数16の脂肪酸を導入したもの(EGCG-C16)については、半減期が約30分であり、約10倍程度の安定化効果があることがわかった。また、EGCG-C16の生体内における代謝反応を予測する為、EGCG-C16をマウスの肝ミクロソーム溶液に添加して反応を追跡した。その結果、EGCG-C16のD環修飾体は3分以内にエステル部位が加水分解されたが、B環修飾体は24分後にも70%以上が残存した。この結果は、EGCG-C16の生体酵素に対する加水分解安定性は、その脂肪酸導入位置によって異なることを示唆した(データ省略)。

EGCG脂肪酸モノエステルの抗酸化活性、抗ラジカル活性

EGCGは他の天然物に比べて、抗酸化活性、抗ラジカル活性に優れる。しかし、EGCGのD環パラ位の水酸基をメチル化すると、その抗酸化活性が約4.58分の1に低下し、抗ラジカル活性についても約2.27分の1に低下することがわかった(表1)。また、EGCGのB環の水酸基に脂肪酸を導入した場合、その抗酸化活性は検出限界以下となり、抗ラジカル活性は約1.80分の1に低下した(表1)。このEGCG脂肪酸モノエステルのB環をメチル化すると、抗酸化活性は検出限界以下となり、抗ラジカル活性は天然EGCGに比較して約5.14分の1に低下した(表1)。以上のことから、EGCGのピロガロール骨格に含まれる水酸基を化学修飾すると、その抗酸化活性、抗ラジカル活性が低下することが明らかとなった。

表1. EGCG、メチル化EGCG、EGCG脂肪酸モノエステル、及びメチル化EGCG脂肪酸モノエステルの
抗酸化活性(SOD assay)、抗ラジカル活性(DPPH assay)、抗インフルエンザウイルス活性(Plaque inhibitory assay)
各数値は小さいほど活性が高いことを示す。ND:検出できず。

表1. EGCG、メチル化EGCG、EGCG脂肪酸モノエステル、及びメチル化EGCG脂肪酸モノエステルの抗酸化活性(SOD assay)、抗ラジカル活性(DPPH ssay)、抗インフルエンザウイルス活性(Plaque inhibitory assay)各数値は小さいほど活性が高いことを示す。ND:検出できず。

EGCG脂肪酸モノエステルのインフルエンザウイルス感染阻害効果

インフルエンザウイルスの粒子外膜上にはヘマグルチニン(HA)蛋白質やノイラミニダーゼ(NA)酵素が存在する。インフルエンザウイルスはHA蛋白質を利用して、細胞表面の糖鎖に接着し、細胞内へと侵入する(図6)。

図6.インフルエンザウイルスの細胞への感染環とEGCG、及びタミフル、リレンザの感染阻害機構EGCGはインフルエンザウイルスが細胞へ接着する過程、また、タミフルやリレンザと同様に細胞から子孫ウイルスが出芽する過程も抑制する。

図6.インフルエンザウイルスの細胞への感染環とEGCG、及びタミフル、リレンザの感染阻害機構
EGCGはインフルエンザウイルスが細胞へ接着する過程、また、タミフルやリレンザと同様に細胞から
子孫ウイルスが出芽する過程も抑制する。

実際、インフルエンザウイルスとニワトリの赤血球細胞を混和すると速やかに凝集反応が観察される。この系中にEGCGを添加すると16µMであってもウイルス-細胞間の凝集阻害は確認されなかった。一方で、EGCG-C16を加えると4µMでウイルス-細胞間の凝集を阻害することが確認された。このことは、EGCG脂肪酸モノエステルがインフルエンザウイルスのヘマグルチニンと細胞表面の糖鎖との相互作用を阻害したことを示唆する。
インフルエンザウイルスに予めEGCGを作用させると約0.39µMでウイルスの感染が50%阻害された。4) また、ウイルス感染阻害効果がないマルトースやソルビタンなどに脂肪酸を導入した場合には、明確なウイルス感染阻害効果が認められない結果となった。このことは、EGCG骨格と脂肪酸のハイブリッドがウイルス膜蛋白質の変性に重要であることを示唆した。

また、インフルエンザウイルスは細胞に感染後、子孫ウイルスを構成する為に蛋白質を複製する。細胞内で増えたウイルス蛋白質は蛍光免疫染色により可視化することができる。EGCG脂肪酸モノエステル 1µMをウイルス溶液と予め作用させ、細胞に作用させた場合、培養細胞内でのウイルス増幅を完全阻害できることがわかった(図7)。実際、EGCG脂肪酸モノエステルによって変性されたウイルス溶液を発育鶏卵内に摂取したとしても、完全に感染致死を阻害できることも確認された。5)

図7. 蛍光顕微鏡を用いたインフルエンザウイルスの細胞内増幅評価
                  赤色)細胞内で増えるインフルエンザウイルスのマトリックス蛋白質の免疫染色。青色)細胞内の核の蛍光染色。インフルエンザウイルスに予めEGCG-C16を作用させると、細胞への感染が阻害された。

図7. 蛍光顕微鏡を用いたインフルエンザウイルスの細胞内増幅評価
赤色)細胞内で増えるインフルエンザウイルスのマトリックス蛋白質の免疫染色。青色)細胞内の核の蛍光染色。
インフルエンザウイルスに予めEGCG-C16を作用させると、細胞への感染が阻害された。

インフルエンザウイルスは細胞内で子孫ウイルスを増殖後、感染細胞の膜上から遊離する(図6)。この際、子孫ウイルスのNA酵素が、子孫ウイルスのHA蛋白質と感染細胞膜上の糖鎖であるシアル酸との会合を切断する。既存薬リレンザは、NA酵素の働きを阻害することで子孫ウイルスの出芽を阻害する。今回、ウイルス粒子のNA酵素によるシアル酸の加水分解活性を調べたところ、EGCGは約50µMでNA酵素の活性を50%阻害したが、EGCG脂肪酸モノエステルはその約80分の1の濃度(0.60µM)で同等の阻害活性を示した。このことから、EGCGに脂肪酸を導入すると、ウイルス膜上のHA蛋白質だけではなく、NA酵素にも作用して感染を抑制することが示された。

EGCG脂肪酸モノエステルのインフルエンザ感染対策に向けたポテンシャル

インフルエンザのHA蛋白質やNA酵素は、血清亜型ごと(例:H1N1, H3N2, B型)で異なり、同じH1型であっても完全に一致した構造ではない。この為、毎年流行するインフルエンザウイルスを網羅的かつ効率的に中和するワクチンの製造は容易ではない。ところがこれに対して、EGCG脂肪酸モノエステルはH1, H3, H5, B型など異なる血清亜型にも同程度の感染阻害効果を示すことがわかってきた。
人類はこれまでに、スペイン風邪(1918年)、アジア風邪(1957年)、香港風邪(1968年)、ブタインフルエンザ(2009-2010年)と4度のインフルエンザパンデミックを経験してきた。2005年以降、ヒトへの致死率が50%を超える高病原性鳥インフルエンザの感染も報告されている。さらに、「タミフル」や「リレンザ」などの既存薬に耐性を有するウイルスの伝播も確認された。このような状況の中、既存薬と異なる作用機序でウイルス感染を阻害する医薬を開発することは急務である。EGCG脂肪酸モノエステルは、ウイルス膜や膜タンパクに作用してウイルスの細胞への接着や細胞からの出芽過程を阻害することができる。既にEGCG脂肪酸モノエステルを配合した感染対策部材の上市もなされている。今後、人類が経験したことの無い新型インフルエンザウイルスが伝播した際には、有効な感染対策部材として提供されることを期待している。

参考文献

  • 1) Kaihatsu K, Yamabe M, Ebara Y. Antiviral mechanism of action of epigallocatechin-3-O-gallate and its fatty acid esters. Molecules. (2018) 23(10).
  • 2) Lam W. H, Kazi A, Kuhn D. J, Chow L. M. C, Chan A. S. C, Dou Q. P, Chan T. H, Bioorg. Med. Chem. (2004) 12, 5587.
  • 3) Tanaka T, Kusano R, Kouno. I, Bioorg. Med. Chem. Lett. (1998) 8, 1801
  • 4) Nakayama M, Suzuki. K, Toda. M, Okubo S, Hara Y, Shimamura T, Antiviral Res. (1993), 21, 289
  • 5) Kaihatsu K, Mori S, Matsumura H, Daidoji T, Kawakami C, Kurata H, Nakaya T, Kato N. Broad and potent anti-influenza virus spectrum of epigallocatechin-3-O-gallate-monopalmitate. J. Mol. Genet. Med. (2009) 3, 195–197..

(2019年11月)

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